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キックオフ2時間前。発表された、先発・ベンチメンバーの中には、期待されていたチョ・ビョングクの名前がなく、新潟戦に続いて、渡辺広大の名前があった。
新潟戦で、あれだけの守備の不安定さを見せた渡辺。一瞬の不安を覚えた。だが、チョ・ビョングクには連戦の疲労に加えて、両足の負傷を癒す時間が必要だ。新潟戦を挟み、中6日で復帰しなかったという事は、指揮官の判断として「連戦は総力戦。選手を入れ替えて戦えなければ意味がない」というものだったのだろう。思えば、渡辺は昨年の最終戦で、後半ロスタイムに劇的な残留決定弾を決めているし、J2時代からも含めて、「ここぞという場面」では、セットプレーを中心に、豪快なヘッドを決めている。
ここは、渡辺を信じて応援しよう、新潟戦を糧に、充分に修正は出来ているはずだ。と、自分に言い聞かせ、ギリギリまで迷った参戦を決意し、そして結果的に、「平日昼間のサッカー観戦を堪能」した。
そして試合は、危険視していたハーフナー・マイクに仕事をさせなかったどころか、この試合で一番にゴールが望まれていた、梁選手自身による「パパ1号」で幕を開け、渡辺は持ち味の豪快ヘディングで甲府を突き放し、前半を2-0で折り返す事に成功。
後半に入っても、大きな視点で流れが甲府に渡りきる事はなく、赤嶺の今季6点目と中島のリーグ戦今季第1号も飛び出し、終わってみれば、4-0 の圧勝。
こんな展開、いったい誰が予想出来たであろうか?僅か2週間で5試合の連戦の最中、いくらターンオーバーで臨んだとは言え、あまりにも一方的過ぎる試合内容だった。
まず、驚いたのは、FW柳沢の今季初先発がこのタイミングで来た事だった。そして、関口をベンチに置き、スーパーサブとして起用した事だった。
負傷中のチョ・ビョングクを渡辺広大に換えて臨んだ事も含めて、明らかに「ターンオーバー」の起用意図だった。
そして、ターンオーバーは、甲府側にもあった。前節からなんと6名もの先発入れ替えを敢行し、かなりギャンブル的な起用で仙台に乗り込んできた。ハーフナー・マイクが好調で現在6得点とは言え、なかなか勝てていない状況の中で、三浦監督なりに打開を図った布陣だった。
共に、連戦の中においてターンオーバーで臨んだ一戦。折しも、6月ながら、この日の午後の最高気温は 31.8℃ を記録し、ほぼ予想通り「暑さとの戦い」となった。
試合前半。仙台は、出だしから甲府を一方的に押し込み、甲府に反撃のチャンスすらロクに与えない、ほぼ完璧な内容に終始。その中で驚いたのは、仙台は甲府に徹底的にボールを渡さない事を実践していた事だった。
いつもの仙台なら、運動量を豊富に繰り出して中盤を掌握し、ショートカウンターから得点機を伺うのだが、この日はショートカウンターというよりも、意図的にボール支配率を上げ、じっくりと「ボールの出しどころ」を探す展開。
つまり、「いつものプレッシングサッカー優先ではなく、普段やらないポゼッションサッカー優先の戦い方」だったのだ。
なるほど。これなら、あまり運動量を豊富に繰り出さなくても、勝機を見出す事が出来る。夏場の戦い方としても有効だ。
だが、ポゼッションサッカーの実践において、絶対的に必要不可欠なものがある。それは「前線でのボールの収まりの良さ」だ。前線で簡単にボールを失うようでは、ポゼッションサッカーどころか、カウンターの応酬を頻繁に受ける事になってしまい、守備で余計に体力を奪う事になってしまいかねない。ましてや、連戦による疲労の影響で、ターンオーバーを余儀なくされている。このため、いつもの先発メンバー構成ではない事から、新潟戦に続き、連携面での若干の不安視も懸念された。今日の試合、本当に大丈夫か?
と、ここまで考えたとき、先発メンバーの中に、柳沢の存在があった事を思い出した。
そうなのだ。先週のガンバ大阪戦でも見せたような、ボールを失わない、球際の強さ。ポストプレーの巧さ。新潟戦でも、途中出場からチームの息を吹き返すような躍動感を見せてくれた柳沢。彼なら、90分を走りきれなくても、ポゼッションサッカーなら充分に通用する。それだけの技術を擁した、元・日本代表の選手なのだ。
そして試合は、この「柳沢先発投入の意図」の通りに展開する。
決して、無理に攻め上がらず、ボールの出しどころをしっかりと見極めた上での攻撃。前線では、しっかりと柳沢がボールを収め、そこから出たボールを、トップスピードでゴールチャンスに繋げる展開。
もしボールを失っても、自陣への帰還を素早く行い、相手のミスなどからボールを奪えたあとは決して無理に速攻は仕掛けず、またボールの出しどころを探しに入る。
まるで、ボクシングで言う「ファイティングポーズをとりながら、時折ジャブを繰り出し、無理に相手の懐に入らない」ような戦い方だった。
そして、前半も折り返しに差し掛かろうとした18分頃、それまでも何度か訪れていた好機の中でも、最大級のチャンスが訪れる。
林のパントキックを赤嶺がポストし、2人のディフェンスに着かれていた柳沢とのボール交換を経て、赤嶺から、オフサイドラインギリギリに位置取っていた梁へ、絶妙のラストパス。これを梁が落ち着いて、甲府GK荻をかわし、甲府ゴールへ流し込んだ。
前半19分。1-0 仙台、先制。ここで待望のゆりかごダンスも飛び出し、幸先の良い先制点が産まれる。
これで完全に主導権を握った仙台は、その後も甲府を攻め立て続けた。34分。中盤で松下からの繋ぎを受けた菅井が、右サイドへ流れた梁へダイレクトで送り込むと、梁は後方から走り込んできた松下へ、絶妙のヒールパス。これを受けた松下が、甲府ゴール右サイドを剔り、そしてゴール前へ飛び込んできた柳沢へラストパス。これは惜しくも甲府のディフェンスに一歩先を行かれて決めきれなかった。
が、このプレーで得た右コーナーキックを、梁が、中央で構えていた渡辺広大へ、ドンピシャリのセンタリング供給。渡辺広大はこれを豪快に決めた。
前半36分。2-0 仙台、追加点。この時点で、1試合平均の得点が1点に満たない甲府にとって、逆転の可能性はほぼ潰えていた。
(あとからのニュース情報によれば、渡辺はこの日、愛妻の誕生日である事を梁に伝えていたとの事。それではと、ゴールを決めろと言わんばかりに渡辺にボールを供給する梁の配慮と、そして見事な精度に、感服ものである。もちろん、キッチリと決めた渡辺広大も、賞賛に値するプレーだった)
なお、あとから確認した情報では、前半は甲府に一本ものシュートすら許していなかった。あまりにも仙台のボール支配率が高いように思われた前半だったが、実に、甲府は前半、ノーチャンスだったのだ。
これで、大いに慌てた甲府。ハーフタイムで選手を2人一度に交代し、控えに廻っていた、「仙台キラー」阿部吉朗と、甲府のセオリー通り、片桐淳至を投入してくる。
これで、前線が少しだけ息を吹き返した甲府が、逆襲を狙って攻め込んでくるも、もともと全員守備を標榜する仙台の堅守を前に、為す術は殆ど無かった。ただ、やはりハーフナーの高さは驚異で、仙台も注意はしていたものの、ハーフナーへのボール供給を許す場面は二、三度ほどあっただろうか。しかし、それらのどれも甲府は決めきれずに、後半も流れが甲府に傾き切る事はなく、次第にその流れは、また仙台へと傾いていった。
後半も中盤に差し掛かった頃の23分。どこかで観たような光景が、突然繰り広げられる。林のパントキックを受けた赤嶺が、相手ディフェンス2人と競り合いながらも、これを頭だけでシュートまで持ち込んだ。コースを狙う余裕のない、「ぽよよんシュート」ではあったが、飛んだコースが良く、最後は甲府GK荻の手をも滑り落ちて、そのままゴールイン。
後半24分。3-0 仙台、更に追加点。今季、相手に3点差を付けた試合は、これが初めてとなった。
「どこかで観たような」と前述した部分の件だが、「磐田戦の3失点目」と言えば、判って貰えるだろうか。赤嶺は、まさにあのときの失点と同じ様な展開で、今度は見事に「仙台のゴール」として、奪ってみせてくれたのだった。
そして、この日にユアスタに顔を出した勝利の女神は、更なるプレゼントを用意していた。後半28分に、次節の清水戦への準備を考慮し、梁と交代で入った中島が、その僅か2分後、いきなり結果を出す。左サイド奥深くにて、この日の気温の高さにもめげず「日陰でプレー出来ていた」朴柱成が、前線で驚異的なディフェンスの粘りを見せて、中央で待っていた松下へボールを供給。これをすかさずシュートした松下。運悪く相手のディフェンスにコースを遮られたものの、この「溢れ球」にいち早く反応し、狙い澄ましたシュートを撃ったのが、僅か2分前に、梁と交代で入った中島だった。
中島の撃ったシュートは、綺麗に甲府ゴール右隅を付き、甲府GK荻の反応を許さずに決まった。「以前の中島」らしいシュート。しかも、「最近の中島」らしくないシュート。ようやく、ゴールの感覚が戻ってきたのだろうか。
後半35分。 4-0 仙台、ダメ押し点。既に勝負は決まっていたに等しい状況だったが、時間の経過と共に、暑い地域をホームタウンとするはずの甲府の選手の足がどんどんと止まりだし、最後は気力すら感じられなくなっていた。
終わってみれば、4得点・無失点の圧勝。結果論とは言え、まさしく「ボーナスゲーム」の様相。前半の2得点でほぼ勝負は決し、後半の2得点は、仙台の現在の力量と勢いを現すに相応しいものとなった。
双方共に、連戦の最中を、ターンオーバーという方法で対処した一戦となったが、甲府はそれによって「連携を欠き、暑さにも負け、何も出来ないに等しい完敗」となり、反して仙台は「暑さを味方に付けるために戦術を変更し、それに適した選手を先発で起用した結果の、予想以上の完勝」を手にした。
この試合で得たものは、限りなく大きい。
勝ち点3を獲得しただけでなく、夏場の厳しい暑さへの対処療法を体得した事に加えて、次節の清水戦を見据えて、関口を温存し、そして梁や角田と言ったキーマンを、90分を待たずしてベンチに下げる事もできた。特に、後半ロスタイムを入れて、残り20分近くあるタイミングで梁を下げる事が出来たのは大きく、早い段階での回復が見込まれるだろう。
併せて、得失点差という意味でも、果てしなく大きな収穫試合となった。この日の夜に行われた他会場の試合にて、ガンバ大阪は柏を4-2で撃破。アウェイながら、柏の得失点を2つ奪ってくれた結果、なんとこの節だけで、仙台と柏の得失点差が6も縮まった事になる。これは、あまりにも大きすぎる収穫だ。
そしてこの日も、サポーターは良く入ってくれた。前週のガンバ戦の15,000台には及ばなかったが、11,000台の数字は立派なものだ。
震災の影響により、前週のガンバ大阪戦と今節の甲府戦を、異例中の異例とも言える平日昼間の開催とした事によって、入場者数や、暑さへの懸念も心配されたが、終わってみれば、入場者数では平均13,000台を叩き出し、結果もホーム2連勝。しかも、1試合は、あのガンバ大阪から奪い去ったもの。
こんな結果を予想できたサポーターが、果たしてどれだけ居ただろうか?もちろん、期待はしていた。勝利を信じて、必死に応援もした。だが、だからと言って、簡単に結果が付いてくるというものでも無い。
しかし、我らがチームの指揮官は、「与えられた戦いの場の状況」を冷静に分析し、連戦の疲労と気温の高さという、一見、マイナス要因でしかないファクターを、見事に味方に付けた。
ガンバ戦では、多少の曇り空をこれ幸いとし、一歩も引かずに運動量で勝負を挑み、最後は柳沢の落ち着きで、赤嶺の決勝点を演出した。
甲府戦では、30℃を越える暑さの中、多少の湿度の低さ(この日は40%台で推移した様子)も手伝い、ポゼッション優先の戦い方を選択し、それに適した人選として、柳沢の先発起用という思い切った策を講じ、それが見事に嵌った。
他のチームが、少なからず選手の疲労や負傷離脱、或いは出場停止などで、ベストメンバーを構成できないで苦しんでいる中、仙台は、現時点で誰1人として主力に負傷離脱者がおらず、しかも、この6月の連戦においては、上手にベンチメンバーを廻して起用する事も出来ている。
あまりにも嵌り過ぎている、その戦い方に、少しだけ皮肉を込めて「僕たちの知ってる仙台じゃない(苦笑)」と言わせて頂きたい。
J2時代の仙台は、上位に良い試合をしたかと思えば、次節の下位対戦で、思いの外に苦戦を強いられる事もしばしばだった。また、初物選手にJリーグ初ゴールを許したり、相手チームの主力選手の欠場などは、むしろ「苦戦フラグ」となる事のほうが多かった。つまり、どこかネジの1本や2本が抜けているような戦い方を繰り返してきた印象が強く、またそれが、J2時代の、私たちの知る「仙台らしさ」でもあり、どこか憎み切れない、愛嬌すら感じる特徴でもあった。時には、歯痒く。時には、頼もしく。そんな展開を右往左往しながら、ようやく辿り着いた、2010年からのJ1の舞台。しかも、前回の2002年~2003年のシーズンとは違い、自ら育成してきた選手を中心に、チームが躍動している姿を見て、我が子の成長ぶりを細目で見守る、親御さんの心境にも似た気持ちで試合を観戦する人は多い事だろう。
そして、そんな私たちのチームは、今年の大きな震災の影響を受けながらも、むしろそれを糧とし、精神的にも逞しく、そして戦術的にも良く練られた、J1で上位争いをするに相応しいチームに、変貌を遂げつつある。
このまま、どこまで無敗街道を突っ走れるかは、判らない。
だが、今のチームからは、仮に「どこかで躓いた=今季初敗戦を喫した」としても、そこでいきなり立ち往生するような雰囲気は感じられない。
もしかしたら、今季、J1のこの舞台で、優勝争いや来季ACL参入権争いにまで、その首を突っ込んでしまうというのだろうか?
「いや、待て待て。まずは足元をみて、残留を決めるところからだ。」
その言葉を聞いて、はっ、とさせられた。ここで、浮かれてはいけない。どんなに調子良く進行しても、昨年の14戦未勝利のようなトンネルは、常に、私たちの足元に転がっているのだ。現に、12戦を終えた現在でも、J1の順位表を見ると、本来ならもっと上に位置していてもおかしくないチームが、下半分の順位に、今だゴロゴロしているのだ。近年、類をみない「戦国J1」の様相の中、仙台はここまで、上手に火の粉をかいくぐってきた。
ただ、決して浮かれている訳でも何でもなく、純粋に、上位争いの一角として名を連ねるだけの実力は、充分に備わって来ているというのも、正直な印象、そして感想である。
そして、「その"資格"があるかどうか」は、予想として恐らく、7月の上位決戦の舞台で明らかになるだろう。
次節の清水戦こそ、まず、昨年のリベンジを晴らしたいところではあるが、そこを過ぎた日程をみたとき、真価を問われる決戦の舞台が用意されている事に、容易に気が付く。
7月 2日、いきなりの名古屋グランパス戦。言わずと知れた、昨年の新王者。
7月 9日、現在首位の柏レイソル戦。おそらくここは、文字通り「首位決戦」だろう。
7月13日、清水エスパスル戦。次節の対戦から僅か3週間後に、再び同じ相手との対戦となる。
7月17日、鹿島アントラーズ戦。リーグ3連覇の経験チームで、仙台と同じ被災チーム。
そして、7月23日の大宮アルディージャ戦を経て、なんと、ナビスコカップとリーグ戦という別大会の都合ながら、柏レイソルとの2連戦が待っている。
特に、昨季王者・名古屋戦と、柏との「7月3戦」は、痺れを切らすような戦いになるものと予想される。震災の影響により、2節~6節の5試合を、7月に代替開催とした結果の日程だが、それにしたって「仙台の今季の戦いが板に付くのを待っていたかのような対戦カード」に、運命の悪戯さえ感じているのは、筆者だけだろうか。
仙台の今季の躍進ぶりが「本物かどうか」を推し量られる、痺れるような上位対戦となるに違いない。だがそれも、あくまでも「目の前の一戦一戦を、大事に戦い抜く事の繰り返し」に過ぎない。
このチームの成長と、J1での躍進を、みなさんと共に願い、そしてチームは、今季、予想外な活躍を見せて、上位陣に留まり続けている。
"夢"を見る、或いは語るには、まだ、早いのかもしれない。
しかし、今のところ、その"夢"を、心の中で追い掛け続けるに値するだけの活躍を、チームはみせてくれている。
信じようじゃないですか。我らがチームを。
それが、今季かどうかは判らないが、"夢" を、堂々と公言させてくれるような。そんなチームへ変貌する事を、強く願って。
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