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4試合連続の無得点など、一向に気にしない-。
試合前のプレビューのサブジェクトで、そう書かせて頂いた。決して、攻撃力が低下している訳ではない。得点が獲れる・獲れないは、紙一重の差。4位への可能性・最終戦を勝って終わりたいという気持ちの強さがあれば、必ず、得点は獲れる。そして、勝ってリーグ戦を終わる事が出来るはず。
そう信じて、キックオフの刻を待ち、試合の行方を見守った。
試合の環境としては、生憎の大雨模様。それも、滅多にお目に掛からない、12月の大雨。それがなんと、この日のキックオフの時間を狙い撃ちするかのように、朝から降り続いていた。ピッチ中央付近を中心に、あちこちで溜まっていた水が、試合前の練習でも、その存在を不気味に誇示していた。
「こんなピッチで、試合に影響しないのか-」そんな心配が、誰しもの頭を過ぎった。
だが、双方の指揮官は、当然のように、その戦い方を変化させて来た。パスが繋がらないと見るや、ロングボールを多用し、シンプルに「相手の裏」を狙うサッカー。一見、単なる「蹴り合い」のようにも見え、詰まらないサッカーになりがちな展開だが、この試合を観る限り、決して、詰まらない試合などでは無かった。
その理由は、雨中の走りにくさをモノともしない、運動量の多さ。只でさえ、90分での体力消耗の激しい、サッカーというスポーツにおいて、この日のピッチコンディションは、最悪の部類を極めた。だが、選手たちは、共に「最終戦を勝利で飾りたい」という気持ちの元、必至に走り、ゴールを目指していた。
相手は、3連勝と勢いを付けて乗り込んできた神戸。だが、こんなピッチコンディションの中で3連勝を挙げてきた訳ではないはず。堅守ベースの仙台にとって、この雨は、「相手がやりたいサッカー」にブレーキを掛けてくれる、自然のアシスタントとも思えた。
果たしてそれは、現実のものとなった。
双方、パスの繋がりにくいピッチ状態から、ロングボール主体のカウンター攻撃をベースに戦いに挑んだが、これが有利に働いたのは、ホームである仙台のほうだった。
神戸は、前線に、ボッティ・大久保嘉人・吉田孝行・ポポと言ったアタッカーをズラリと並べて来たが、仙台の中盤でのディフェンスの堅さの前に、チャンスメーク以前のタイミングで、尽くボールを失う展開の連続。神戸の攻撃陣が機能する事は、ほとんどなかった。
むしろ、神戸のボールを奪取してからの仙台は、そのスピードと運動量の豊富さをウリとする、関口訓充と、太田吉彰の"ダブルスピードスター"によって、次から次へとチャンスを作り続けた。
誰が観ても、仙台優勢。惜しいシュートを連発し、いつゴールが産まれてもおかしくない雰囲気と展開の中、やはり先制点は、仙台のほうに産まれる。
前半18分。右サイドでボールを持った松下が、神戸ゴールの少しファーに居た太田目掛けて、良質のセンタリングを供給。これを頭で折り返した太田のボールに、中央で素早く合わせたのが、仙台のエースストライカー・赤嶺。得点が決まった瞬間、リーグ戦5試合ぶりの得点に、スタジアムが、地鳴りのように共鳴した。
前半19分、仙台1-0神戸。
赤嶺、今季13ゴール目に到達。3試合で僅か1失点と、堅守性の顔を覗かせていた神戸から、貴重な先制点をもぎ取って見せた。
前半の間に降りしきった雨は、ハーフタイムを迎えたあたりから、その勢いに陰りが見え始め、いつの間にか、夜空は綺麗に晴れ渡っていた。
後半は、視界を遮るほどの大雨から一転、澄んだ空気の中で始まった。
ピッチの状態も、時間を経過するにつれ、少しずつ改善してくのが判った。転がらなかったボールが、少しずつではあるが、転がるようになって行く。それに合わせるように、パスを繋ぎたい神戸の勢いが増して行くのも判った。だがそれでも、仙台の堅守の前に、神戸はシュートを撃っても、ほぼノーチャンス。研ぎ澄まされた仙台の堅守は、神戸のチャンスメークの芽を尽く潰し、決して、安易に決定機を許さなかった。
1点リードのまま、迎えた後半34分。前半の得点シーンと同様に、またも松下から、歓喜の追加点が産まれる。
獲得した右CKを蹴り込んだ梁のボールは、誰にも触れられず、中央後方で張っていた松下のところへ。これを松下、左足でダイレクトにシュート性のボールを放つと、その軌道上に偶然居た赤嶺が、飛び上がりながらも、残した左足のインサイドでボールの角度を変えた。
これで、完全に虚を突かれた神戸GKは、ゴール中央に吸い込まれるボールに、一切反応できず。
後半35分。仙台2-0神戸。
試合の流れを観れば、これで、仙台勝利がほぼ確実のものとなった事は明らか。神戸はこの後も、為す術なく、掲示されたロスタイム4分も、無難に消化していった。
そして、歓喜の刻が-。
今季のリーグ最終戦を勝利で飾ると共に、他会場で行われていた、横浜FM-鹿島の一戦が、1-1のドローで終了したとのアナウンスが流れると、4位に浮上した事を知り、スタジアム中が、喜びの渦に包まれた。
ベガルタ仙台の、今季リーグ戦の成績、14勝14分6敗の勝ち点56。優勝争いにこそ絡まなかったが、リーグトップの失点数の少なさを武器とし、勝てない試合でもドローを拾って、地道に「勝ち点1」を積み重ねてきた。その結果、仙台よりも勝利数の多い、横浜FM(16勝)を得失点差でかわし、見事に、4位に浮上して、今季のリーグ戦を終える事が出来た。
終わってみれば、クラブ史上最高の成績を収めてのフィニッシュ。本当にこれが、あの大震災で、大きく打ち拉がれた地域をホームタウンとするクラブの成績なのか。改めて、何かを背負って戦う者の強さを感じた一戦となった。
落ち着いて、今季の成績を眺めてみると、「得点39」は、今季に残留争いを繰り広げた、浦和レッズの36得点や、ヴァンフォーレ甲府の42得点と肩を並べるものだ。それでも、こんな素晴らしい成績を残せた要因は、リーグトップを誇る、25という失点の少なさ。2位の名古屋が36失点で、これ以外の16チームが全て40失点以上である事を考えると、如何に、失点の少なさが得点の少なさを補っていたかが判る。
この失点の少なさは、「試合に負けない」事へとダイレクトに繋がり、敗戦数も、名古屋の5敗に続き、ガンバ大阪と肩を並べる6敗となった。
つまり、攻撃力のレベルは「降格圏を彷徨い、残留争いを繰り広げるチームと大差無かった」のに対して、守備力のレベルは「優勝争いを繰り広げた上位3チーム」に全く引けを取らなかったのだ。
そして、何と言っても「負けない仙台」というフレーズ。これは、今季のこのクラブが目指した「地域の希望の光となる」事に対して、一番に求められた戦い方そのものだった。
-マイナスの状況から始まった、今季の戦い。
12戦無敗とした、序盤の戦いの時期も。
9戦未勝利とした、初夏の苦しみの時期も。
その後の6連勝を含めた、11戦無敗の終盤戦の時期も。
いつだって、私たちは、地域を代表して戦い抜く、選手の皆を、サポートし、鼓舞し、声を張り上げて応援して来た。
その結果、今季のリーグ戦を、4位という素晴らしい成績で終える事が出来たのだ。
ところで、この事を覚えているだろうか?
今季の初敗戦を喫した、第18節(6月26日)のアウェイ清水戦での事。試合後の監督インタビューで、敵将のアフシン・ゴトピ監督から貰った一言を。
「彼らが今年何位で終わろうと、彼らが真のチャンピオンだ」
私たちは、あの敗戦の中においても、彼のこの一言で、今季の戦いに臨む意義を再確認した。そして、最終的には、J1の中では最大級の被災を被った地域をホームタウンとするクラブとして、最大級の成績を残せたのではないだろうか。
そして、私たちの今季シーズンは、まだ終わってない。
正真正銘のチャンピオンに成れる可能性が、天皇杯で残っている。2009年でベスト4に残り、準決勝でガンバ大阪に破れはしたものの、あの時のような雰囲気と勢いが、今、また戻ってきている感触がある。
今季リーグ戦のシーズン初頭で、いったい誰が、仙台のここまでの躍進を予想出来ただろうか?私たちでさえ、予想だに出来なかったというのに。
それと、同じ事だ。
天皇杯で、仙台が優勝する可能性-。
今季は、只の1シーズンではない。背負うものの重さを感じながら戦う意義や、その戦いの中でにじみ出る強さは、天皇杯という舞台においても、力強い武器となって、選手の足を動かしてくれる事だろう。
大阪で繰り広げられる、天皇杯3試合。負ければ即終了という、一発勝負のカップ戦において、私たちは、今季のナビスコカップで対戦した、柏レイソルとの2戦を覚えているはずだ。
そうなのだ。今季、リーグ戦で優勝を飾った、あの柏レイソルから、私たちは、カップ戦で、2戦2勝を収めているではないか。
天皇杯を勝ち進めば、決勝の舞台で、また柏と対戦する事が出来るかもしれないのだ。
元旦の決勝の舞台で、柏レイソルと対戦。太陽をモチーフとしたクラブ名のチームと、夜空の星の名をモチーフとしたクラブ名のチームの対戦は、間違いなく、今季のシーズンのフィナーレを飾るに相応しいカードだ。
何としてでも、勝ち上がろうではないか。私たちのシーズンは、まだ終わっていないのだ。
アフシン・ゴトピ監督に貰った「彼らこそ、真のチャンピオン」のフレーズを、名実のものとするためにも-。
今しばらく、私たちも、戦い続けよう。
選手と共に、地域の希望の光を灯すために-。
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