この場合の「初日」の意は、大相撲の用語に由来する。本来の初日は、一場所で15日間の第1日目の事を指すのだが、そこから連戦連敗を喫している力士の場合、その場所で初めて勝った時に、「ようやく初日が出る」と言われる。勝利挙げて初めて、その力士にとっての「今場所の初日を迎えられた」という訳だ。ロジャー大葉氏が使ったこの語句の意は、まさしく「今季開幕から2戦2敗で、勝利どころかまだ勝ち点1すら奪えていない状況」を例えてのものだ。
今季から、1トップの布陣にトライしている仙台。その布陣の特徴でもある「2列目の攻撃力の厚さ」と「孤立し易い1トップへのケア」を体得しなければ、この布陣を、今季のベースとして据え置くのは難しくなるだろう。だが、他のチームを見ても、4-2-3-1 を敷くチームは増えてきており、今後の主流になっていくであろう予感もする。その布陣自体を勉強しておく事は、相手を研究するという意味において、悪い事ではない。
だが、流石に現状は、この 4-2-3-1 布陣を「モノに出来なさ過ぎ」の状況下にある。いくら「新しい事へのチャレンジは慣れと我慢が必要」とは言え、現状の内容を観る限りでは、筆者個人の考えとしては、このまま我慢していても、良くなる兆しというものが出て来ないのでは?と感じている。かと言って、結果を求めるあまり、性急にガムシャラなパワープレーに走ったからと言って、安易に得点や勝ち点という結果に結び付くものでもない。
しかしながら、プロサッカーである以上、必ずどこかで「結果」を求められる時期がある。判りやすい例で言えば、優勝争いや残留争いなどだ。結果を出さなければ、優勝を逃したり、J2へ降格する事態に陥りかねない、こういった、まさに背水の陣レベルの状況でなら「今は、内容よりも結果」と声高に叫ばれても仕方ない。
そして筆者は、この第3節というタイミングで、まさに、「今は、内容よりも結果」が必要と感じている。
仙台は、JFLの時代を除き、Jリーグでの「開幕連敗」というのを経験した事がない。例年は、ある程度の「開幕ダッシュ」に成功し、その勢いに乗って、多少の勝ち点の貯金を残せている事が、例年、そこそこの順位を維持出来る大きな要因だった。2011年の4位、2012年の2位は、その最たるものだった。
だが、現状は、昨年の13位フィニッシュという為体(ていたらく)を引き摺っているかのように、今季開幕の新潟戦終了時点で13位スタート。そして、前節の0-2完敗を受け、僅か2戦ながら、J2降格圏の16位に甘んじている。
更には、これはもう何度も書いている事だが、昨年終盤から始まったリーグ戦連敗も、現在は5に伸びている。また「公式戦の未勝利」に至っては、昨年末の天皇杯も含め、なんと、8試合未勝利が続いているのだ。この間の成績は、なんと、1分7敗。「公式戦の連敗」という意味では、既に6連敗中である。
こういう「無敗記録」「未勝利記録」というものは、ある程度続くと、必ず誰かが(メディアも含めて)、年を跨いだ記録の継続性に気が付き始める。記憶に新しいところでは、大宮の無敗記録だ。大宮は、一昨年のホーム仙台戦の敗戦を最後に、そこから、年を跨いで連戦無敗を貫き、昨年に再び仙台に敗れるまで、記録的な連続無敗記録を達成した。
この大宮の例は、まだ「無敗記録」だから良いものの、これが「未勝利」となると、シャレにならなくなる。
筆者の心配は、今年の仙台が、あまりにも勝利から遠ざかり過ぎると、それが「負の連鎖」を呼び込み、勝てる試合でも勝てなくなる事が出てきかねない、という事だ。
なかなか勝てない状況での試合では、仮に勝ち越し点を奪い、やっと勝利が見えてくる時間帯であっても、そこで「また失点して、勝利を、或いは勝ち点を逃すのではないか」という、全く感じる必要のないプレッシャーを受け、それが動きの堅さを呼び込み、相手に反撃の隙を与える事にも繋がってしまいかねない。
こういう心配をしたくもなる、具体的なデータがある。昨年のリーグ最終戦から、仙台はずっと、試合終了間際の失点が止まっていないのである。
2013年12月7日。第34節、アウェイFC東京戦。後半AT+2分に獲られた2点目。
2013年12月22日。天皇杯準々決勝、ホームFC東京戦。後半AT+3分と、延長後半15分に獲られた2得点。
2014年3月1日。第1節、ホーム新潟戦。後半44分に獲られた2点目。
2014年3月8日。第2節、アウェイ鹿島戦。後半45分に獲られた2点目。
もちろん、決勝点を目指して、或いは同点に追い付こうとして、リスクを背負って前へ攻め上がっていた、その裏をカウンターで突かれてのやむを得ない失点というのもある。というか、上記4試合は、ほとんどそのパターンだ。
だが、そうであったとしても、試合終盤の失点というのは、決して許されるものでは無い。百歩譲って許されるとすれば、それは、2点差以上のリードを付けて試合終盤に突入し、相手に一矢報いられる場合においてのみだ。このケースでのみ、勝ち点3は減少せず、単なる「次節へ向けての課題」程度の扱いに留まる。
しかし、上記の失点は全て、許される失点ではなかった。特に、天皇杯準々決勝の2失点は、絶対にやってはならない失点パターンだった。相撲で言えば、相手を土俵際まで追い詰めておきながら、最後は自分が逆の土俵際から突き落とされるという、屈辱的な負け相撲である。
そして、「こういう時間帯の失点癖」は、繰り返せば繰り返すほど、悪い意味で、それが板に付いてくるものだ。更には、相手に研究される材料にも成りえてしまい、仙台のウィーク・ポイントとして、対策を講じられる要因ともなってしまう。
この程度のデータなら、もはや、仙台を相手にしているチームは、とっくの昔に研究済みだろう。そして、こういう分析をしているはずだ。「仙台は昨年末から、試合終盤の失点に弱い。そこで圧力を掛ければ得点できるー」。
なぜ、こんな状況にまで陥ってしまったのだろうか?
答えは、簡単だ。
「難しく考え過ぎてしまい、シュートで終われるサッカー」をしないからだ。
中途半端な攻撃でボールを失い、中途半端な守備でカウンターのピンチに晒され、そしてやっとの思いで相手からボールを奪っても、そこから攻撃に打って出る選手が少なく、カウンターすらまともに機能しない。仕方なく、ボールを保持して、みせかけのポゼッションで様子見に入る。そんな悠長な事をやっている間に、相手はさっさと帰陣し、守備網を固める。
こんなやり方では、得点できるはずもないし、失点を止められるはずもない。
このままでは、選手が、その自信すら失ってしまいかねない。
「本当に、今季のこのサッカーを続けてていいのだろうか?」
あまりにも結果から遠ざかってしまうと、いくら、やっているサッカーの内容に「手応え」があっても、それこそ「暖簾に腕押し」になってしまう。
そうなる前に、どうしても、今は「結果」が必要なのだ。
もう、内容なんて、どうでも良い。
別に、1トップに拘らなくてもいい。昨年まで慣れ親しんだ、2トップに戻ってもいいじゃないか。それで得点が獲れるのなら。勝てるのなら。(だからと言って、2トップに戻せ、という意味ではないが)
基本中の基本である、「選手が伸び伸びとサッカーをやれているかどうか」という点にすら、現状では疑問を感じざるを得ない。どこか、迷いのあるサッカーをしてしまっている。
それなら、慣れ親しんだ2トップで臨む時間帯を作っても、いいじゃないか。
または、前半のキックオフから、慣れ親しんだ2トップで臨む試合があってもいいじゃないか。
ある程度の結果を積み重ねる中で、1トップと2トップを併用して、状況に応じて使い分けられるように成らなければいけない。それが「引き出しを増やす」という事ではないのか?
それなのに、現状の仙台は、無理に「新しい引き出しを無理矢理開けよう」として、「古い引き出しを上手に活用しよう」としていないように見える。
昨年までの財産を、前半キックオフから採用するのが、そんなに嫌か?
例えば、極端な事を言えば、当面の間は、3試合に1試合くらい、2トップでスタートしても構わないのではないか?
相手の選手構成や布陣との絡みもあるが、その辺も含めて、もう少し、昨年まで培った財産を活用しても良いのに。と考える事が良くある。
今の仙台に必要なのは、例え、相手に読まれ易くても、やりやすいサッカーで、選手が伸び伸びのプレーする事のほうが重要ではないか、と考えている。
選手が、悩まずに挑めるサッカー。判りやすく言えば、堅守速攻型のカウンターサッカーなんか、やるほうも観るほうも、判りやすくて良いだろう。
幸い、仙台屈指のスピードスターの太田や武藤が健在だ。仙台がボールを奪ったとき、彼らが両サイドをトップスピードで駆け上がり、ボールを引き出す動きからゴールチャンスを伺う展開は、簡単に脳裏に浮かぶ。彼らのスピードを以てすれば、G大阪の守備陣の帰陣よりも速く、アタッキングサードに侵入できるだろう。
「判っていても、仙台のカウンター攻撃は止められない」
そう、相手に思わせるような、シンプルでも効果の望めるサッカーのほうが、今の仙台に必要で、合っているのではないだろうか?
「そんな、高校サッカーやJ2みたいな、ベーシックで泥臭いサッカーなんか観たくない」という、目の越えた諸氏もおいでの事だろう。
だが、それ以上に見たくないのは、これ以上、仙台が、得点も勝ち点も上げられず、ズルズルと未勝利街道の道をひた走る事だ。
どんな形でもいい。どんなに泥臭くてもいい。
ここで一発、勝利という結果が出ない事には、この先の試合展望が、暗くて仕方がなくなる。仙台が勝利する試合が観れなくて、ヤキモキするサポーターが増えてくるだろう。いや、サポーターならば、すでにそういう気持ちで満杯か。
なんとしてでも、今節では「結果」を-。
今季は、あと32試合しかない。
来季もJ1で戦いたいなら、今ここで、死に物狂いで結果を見せて欲しい。
「キリギリス」である必要なんか、どこにもない。
むしろ、「蟻」であれ。仙台。
美しい鳴き声も、見栄えする容姿も、要らない。
泥臭く、仲間と共に餌や土をせっせと運ぶ、あの地道さとシンプルな行動パターンこそ、今の仙台に必要なものではないだろうか。
そこに気が付いてくれれば、この一戦で仙台に「初日が出る」のは、決して有り得ない事ではないと考えている。
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