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仙台1-0FC東京 とうとう導き出した「勝利の方程式」。己の武器とする「仙台型・堅守速攻」がこの日は冴え渡り、後半30分の赤嶺執念弾を、試合終了まで強かに守り抜いた。14戦無敗だったFC東京に土を付け、残留争いを一歩前進。7戦ぶりの勝利とその内容は、残り7試合へ向けての確かな道筋に。

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 5連敗で、完全に失っていた自信を、前節の川崎戦で取り戻した仙台。振り返れば、中断期間前の4連勝も、その直前の引き分けは川崎戦だった。川崎戦で得た反省と課題を、次の戦いの勝利に繋げるという意味では、同じ展開となった。

 だが今回は、5連敗の中から迎えた川崎戦だった。後半45分にこそ失点を喫したが、内容に手応えはあった。誰しもが、このFC東京戦に向けて、「14試合負けていない相手」として必要以上に恐れるのではなく、代表に4名も選手されたタレント揃いのチームを喰ってやろうと、手薬煉を牽いて待っていたに違いない。それはおそらく、選手も、サポーターも同じ気持ちだった事だろう。

 
試合当日は、台風18号の影響により、仙台以外の各地の天候は荒れ模様だったが、仙台開催のこのゲームは、何とか台風の影響を逃れられた。気温も最高で18℃と、運動量を繰り出すには申し分ない気候。舞台は整っていた。
 
唯一、ちょっとだけ不安だったのは、前節の川崎戦で先発した角田が、この日は体調不良で欠場した事。代わりに入ったのが鎌田だった。角田に先発して欲しかったが、、、いやいや、チーム全体で堅守を意識すれば良い事、と、キックオフの笛と同時に、試合に集中した。
 
始まってみると、お互いに堅守速攻タイプのチームらしく、あまり最終ラインを高く上げずに、お互いの出方の様子を伺う展開が続く。仙台は、川崎戦で思い出した堅守性を。FC東京は、14試合無敗で培った堅守性を。それぞれの特徴を出し、相手に決定機を与えずに、前半の時間を消化していった。
 
FC東京の武藤とエドゥーは、この日も、やはり2トップの顔触れだった。この2人だけで21点。FC東京の得点40点中、その半分を、この2人だけで叩き出している事を思えば、間違いなく、現在のFC東京の「顔」は、この2人だった。如何に、この2人に「仕事」をさせないか。まずは、そこが仙台の課題だった。
 
そしてそれは、ほとんどの状況で、その課題をクリアできていた。なかなか取られない「仙台の裏」。与えないスペース。このため、両軍は、時折繰り出すミドルシュートで、あわや得点という棚ぼたに期待するも、あちらは日本代表のGK権田。簡単に破れるようなゴールの堅さではなかった。しかし、関も負けてはいなかった。地上波中継の解説でスタジアムに来ていた高桑氏も、関の守備を絶賛していた。
 
お互い、シュート数の少ない展開ながら、見応えのある「守り合い」で、あっと言う間に前半を折り返す。そして迎えた後半では、サイドから状況の打開を見据える仙台の戦いが見られた。
 
前節まで、得点を欲しいままに相手から奪い取ってきたFC東京だったが、後半に入っても、仙台の堅い壁を崩しきれずに、時間だけが進む。お互いに落ちない運動量。時間は、前半と同様、あっと言う間に過ぎ去っていった。時計と試合を交互に見ながらの観戦だったが、いつもより、時間の経過が速いように感じられた。
 
そして迎えた、後半29分。その歓喜の瞬間は、左サイドから始まった。梁・野沢・石川と左サイドでのパス交換から、抜け出して中央に切り込んだのは梁。ドリブルで果敢に持ち込み、右サイドから侵入してきた菅井へパス。ここで、オドロキのプレーが飛び出す。なんと菅井、梁からのボールを、ワンタッチで、FC東京ゴール前に食い込むように侵入していたウイルソンへ、キラーパスを出した。
 
これには、見ている側も意表を突かれた。当然、守っているFC東京側も「あっ」と驚いたに違いない。一気に崩れる、FC東京の中央の壁。菅井から受け取ったそのボールを、ウイルソンは躊躇わずにシュート。このシュートは、残念ながらGK権田に片手1本で止められたものの、あまりにも速いその攻撃展開に、キャッチやパンチングでのセーフティな処理が出来ず、これを溢してしまった。
 
そして、こういうシチュエーションを最も得意とする選手が、仙台には居た。赤嶺真吾。今節の対戦相手でもあるFC東京から、2010年の途中にやってきた彼は、常に、ゴール前での嗅覚が鋭い、仙台の歴代屈指のストライカーである。そしてこの日も、ウイルソンとの距離感を大切にしながら走り回っていた結果、ウイルソンのシュートの「零れ球」が来るところへ、しっかりとポジションを取っていた。
 
FC東京の堅守が、崩れた瞬間。ここで決めなければ、おそらく、残りの時間で決めるのは難しかったに違いない。ここで、どうしても決めたかった。思えば、取り消された幻のゴールシーンもあった。
 
「こんどこそ」
 
そんな想いが、赤嶺のシュートを待つボールに乗り移っただろうか。GK権田の手から零れたボールは、赤嶺の執念の押し込みによって、とうとう、FC東京のゴールネットを揺らした。
 
後半30分。仙台1-0FC東京。
 
前節まで、連続3試合無失点だったFC東京のゴールを、とうとう、仙台が破った瞬間だった。
 
湧き上がる歓声。揺れるスタジアム。7戦ぶりの勝利の扉をこじ開けるために、どうしても必要だった得点。それが、ようやく決まった。
 
だが、試合はまだ15分と後半アディショナルタイムを残す状況。ここで気を緩めて失点すれば、川崎戦と同じ轍を踏む事になる。それだけは、絶対に許されない。
 
すぐさま、守備のスイッチを入れ直した選手たち。サポーターも、「さぁ守り抜くぞ」という意識で統一されているように思えた。
 
もはや、2点目の空気などは、どこからも感じなかった。守備の堅いFC東京。2点目を容易に取れない仙台。そんな対戦カードの中から産まれた、仙台の先制点。当然、この試合の行方は、如何にこの1点を守り切れるか、という雰囲気に包まれていった。
 
そして、その意識は、仙台の選手にも植え付けられていた様子だった。失点を喫し、何かの「スイッチ」を入れたかのように、攻撃のギアを上げてきたエドゥー。あまりの速さに、囲んでブロックするのがやっとの仙台の選手。こうなる事は、想定の範囲内だった。そして、仙台のペナルティエリア内で倒れるエドゥー。笛を吹いて、プレーを止め、イエローカードを準備する主審。
 
一瞬、「PKを与えてしまったか!?」と、頭を抱えかけた。が、主審がカードを掲示したのは、エドゥーだった。
 
「シミュレーションか!」
 
最近は、倒された振りをして試合を有利にしようとするシミュレーション行為には、判定が厳しい。そのためか、このシーンでもエドゥーに警告が掲示された。そんな風潮が、このシーンでは、仙台に味方をした。
 
事態を把握し、激高するエドゥー。そしてこの3分後、そのエドゥーが、プレー中に富田を故意に倒してしまったとして、2枚目のイエローカードが掲示された。
 
掲示される、赤いカード。
後半35分。エドゥー、退場。
 
この3分間だけは、「主審とエドゥーだけの劇場」だった。まさか、仙台が得点を決めた直後に、相手チームの驚異的なストライカー選手が、立て続けに2枚もの警告の掲示を受け、ピッチから姿を消す事になろうとは、夢にも思わなかった。
 
仙台が、7試合ぶりの勝利へ向け、大きく状況が傾倒した瞬間だった。
 
その後、エドゥーの警告2枚の掲示の間の時間帯で、2枚替えで事態の打開を謀ってきたFC東京だったが、流石に前線の大駒を失っては、打てる手は無いに等しかった。失点後、攻撃的な選手を立て続けに入れてきたFC東京だったが、時計が90分を間近に挿すまで選手交代を我慢してきた仙台は、ここで、ゆっくりと、選手交代のカードを切り始めた。
 
そう、「時間稼ぎ」だ。勝ち越し点を奪い、残りの交代カード3枚を全て温存してきたチームなら、どこも強かに取る手段。どんな手を使ってでも、逃げ切って勝利を掴む。今の仙台にとっては、この時間稼ぎですら、大切な、大切な作業だった。そして、1枚目を切ったのが、なんと89分だった。
 
掲示されたアディショナルタイムは4分。仙台はその大半を、残り2枚の交代カードで「確実に消化」した。エドゥーの退場を受け、攻撃の選択肢を制限されたFC東京から、更に、時間をも容赦なく奪った。
 
そして訪れた、歓喜の刻。7戦ぶりにして手にしたこの日の勝利は、1勝する事の難しさの再確認と、そして、残留争いへの希望の光として受け止められた。
 
試合後、それまで我慢していたかのように、弱い雨が泉中央に降り始めた。お天道様も、仙台の勝利が決まるまで、泣き崩れるのを待ってくれていたかのようでもあった。
 
仙台が手にした、この1勝は、得点こそ1点に留まったが、「1点あれば勝てるサッカー」を体現し、残りの7試合へ向けての大きな自信にもなった。
 
まさに、「1点を失えば勝てないサッカー」から「1点あれば勝てるサッカー」への脱皮。それは、如何に失点しないかという、堅守の基本から立ち返った仙台にもたらされた、仙台型・堅守速攻の礎となるだろう。
 
ここで言う「仙台型」とは、単純に引いて守るだけではなく、運動量を繰り出して、前線からのプレスも積極的に仕掛け、相手の攻撃の芽を潰し続けるサッカーを、こう定義したいと思って記載した。
 
相手のチームの力量に関係なく、一定の戦い方が計算できるこの戦術なら、来季から始まる2季制のJ1の舞台においても、大きな武器になるに違いない。それを、今、このタイミングで「体得」出来た事の意味は、決して小さくない。
 
そのためにも、今季は、何としてでも残留を果たそう。
 
残り7試合。相手が首位の浦和でも、最下位の徳島でも、やるべきサッカーに違いはない-。



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