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仙台3-0磐田 「ギャンブル」大当たり。不安視していた連携面の心配もなく、久しぶりの出場となった控え陣が大いに躍動。「これが仙台のサッカー」それを再確認できた、残留争い・起死回生の一勝。

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今節のプレビューは、文末にて、この様に綴らせて頂いていた。

> この試合が終わったとき、是非とも、こんな感想を持ちたいものだ。
>「だから、仙台の応援は止められない」-。

この試合の終了を告げるホイッスルを聞いたとき、この一文を思い出していた。願ったり適ったりとは、まさしく、こういう事を言うのだろう。

前節から先発メンバーを大きく変えるという「ギャンブル」の結果が気になった一戦だったが、終わってみれば、3得点・無失点の快勝劇。攻めては、関口レベルの運動量を、太田を始めとして攻撃陣のほぼ全員が実践し、積極的なプレッシングで、磐田側にボールを楽に持たせず。セカンドボールへの意識も高く、次から次へとチャンスを作り、試合のペースを確実に握り続けた。

守っては、一ヶ月半ぶりの先発となる渡辺広大を始めとし、ほぼ全員が、ボールを持つ相手に積極的にブロックを仕掛け、決定的なチャンスを相手に作らせない。特に、前田とジウシーニョには万全の注意を払い、確実に磐田側のチャンスを潰し続けていた。

驚いたのは、負傷明けの太田の速さと、その意識の高さ。ナビスコカップ準々決勝にて負傷離脱してしまった彼の復帰戦が、また磐田戦だったというのも、少々出来過ぎな感はあったが、「古巣撃破」の意識も手伝ってか、太田のこの試合の速さは、今季の彼の過去の試合の中でも、関口レベル、いやもしかしたらそれ以上の速さだったかもしれない。

太田の復帰により、関口の穴は、確実に埋まっていた。

そしてもう1人、ボランチ永井の先発起用。出場時間に関しては、後半19分に田村と交代してお役御免となり、この点はほぼ予想通りだったのだが、驚くべきは、その内容だった。元々、サイドハーフも出来る彼の起用は、「時間限定ながら、攻撃参加をも期待する」という意味合いを強く感じていたのだが、ボランチで積極的に攻撃参加をしていたのは、実は相棒の斉藤大介。永井は、負傷離脱中の富田、そして引退を表明した千葉直樹に掛かっていた期待ポイントでもある「攻守のバランス維持」の中心的存在として、キッチリと、ベテランらしい仕事をしてくれたのだった。

攻撃参加の面では、決して目立たない存在ではあったが、神戸戦では観られなかった「試合運びの落ち着き」は、明らかに、永井あってのものと思っている。流石に最年長選手だけの事はある。体力面のコントロールさえ出来れば、彼は、まだまだJリーグでは通用しそうだ。案外、引退はもう少し先になるのかもしれない。(但し、連戦は難しいだろう)

ここまでに取り上げた、太田・永井を含め、中原・渡辺ら久しぶりの先発復帰組が、この試合では大きな仕事をやってのけた。

この日の仙台の戦術は、実にシンプルだった。「ジュビロキラー」赤嶺に、注意とボールが集まりそうな戦前の雰囲気を他所に、高さに強みのある中原を前線に据えた事で、明確なターゲットが出来たため、仙台としては、後方から、そして両サイドから、中原にボールを集める展開。試合後の柳下監督のコメントでも「中原の高さは要警戒」とあり、磐田としては、赤嶺以外にもマークすべき選手が出来た事で、注意がバラけてしまう事になった。

そして、相手のマークが分散した事によって、仙台は、面白いように、サイドを起点とした攻撃を、次から次へと繰り出す事に成功する。斉藤のミドル、中原の渾身ヘッド。どれも枠を捉え、相手GKが川口でなければ、5点も6点も獲れていたかもしれないような、怒濤の攻撃が続いた。

そんな展開の中から、何度も奪い続けた、CKのシーン。後半も30分を過ぎた頃、一つのCKのシーンが、得点へと結び付く。右CKから、梁の放ったボールは一旦跳ね返されるも、これを太田が拾い、相手ディフェンスを置き去りにして、磐田ゴール前へ、右足で絶妙のクロスを供給。これにドンピシャリで合わせたのが、太田と同じく、久しぶりの先発出場を飾った、渡辺広大。彼へのマークは全くなく、いわゆる「どフリー」で、頭部左側面で、思い切ってシュートを放った。このボールは川口の正面を突き、渡辺のゴールとは成らなかったが、このボールの勢いが強すぎたため、GK川口がこれをファンブル。そこを見逃さずに詰めた中原が、キッチリとボールを押し込む。

前半35分。1-0 仙台先制。

この試合の序盤こそ、磐田の圧倒的な攻撃力の前に、圧され掛けていた部分もあったのだが、辛抱強くこれを堪え忍ぶと、流れは次第に仙台へ。その流れのまま、35分に先制点を奪う事に成功した仙台は、手綱を緩めず、果敢に2点目を奪いに行く。

そして、この先制点から僅か6分後。またも奪った、右CKのシーン。梁が放ったボールは、先ほどの得点と同じような軌道を描き、今度も渡辺の、、、、いや、そこには今度は、鎌田次郎が居た。まるで、先ほどの得点シーンのリプレイを観ているような。そんな展開から、鎌田のヘッドにて放たれたボールは、今度こそGK川口に当たる事なく、ゴールの右隅へ綺麗に決まった。

前半41分。2-0 仙台追加点。

地鳴りのような、サポーターの大歓声。相手は今月の3日に、ナビスコカップを制覇したばかりのジュビロ磐田。一部の選手に負傷者も居たようだが、得点源の前田とジウシーニョは前線で健在。いくらホームの利があるとは言え、ここまで理想的な試合運びと得点経過が観られるなど、一体誰が、予想出来たであろうか。

まさかの2点リードを許した、磐田の柳下監督。ハーフタイムで、一気に2枚のカードを切ってきて、早期の得点を狙ってきたものの、後半に入って、より一層の落ち着きを見せ始めた仙台の誇る堅守の高さに、前半から続く「仙台寄りの流れ」を止められないまま、時間は刻々と過ぎ去っていく。

その後、疲れの見え始めた永井を下げて田村を入れ、ボランチに「番犬」を据えた仙台。磐田としては、ますます中央からの突破が難しくなった。

そして、苦しむ磐田にトドメを刺す事になる、この選手がピッチに登壇する。

後半33分、先制点を奪った中原に代えて、負傷から復帰2戦目の中島を投入。既に2点を先行し、試合もあと12分+ロスタイムとなったこのタイミングで、起用された中島に期待されたのは、持ち前の守備力による無失点狙いの起用か-。

と思っていたその7分後。事態は、とんでもない展開を迎える事に。

「攻めの流れが切れていない」と判断したのだろう。ボランチ・斉藤が、右サイドで果敢にボールを前に運ぼうとする。すると、その執念が実り、相手ディフェンスを見事にかいくぐり、右サイドを一気に突破する事に成功した。

まるで、前半2得点の起点となった、梁のCKのシーンの様に。「そこ」に得点チャンスを感じ取った、仙台攻撃陣。斉藤の繰り出す、速いクロスは、合わせるのが非常に難しいボールのようにも思われた。

だが、その「難しいボール」に難なく合わせ、ゴールを奪って見せたのは、なんと、負傷明けの復帰2戦目となる、中島祐希だった。

思えば彼は、毎年のように、シーズン途中で負傷し、そしてその負傷明けの出場試合で、挽回をアピールするような得点を決めてきた。まるで、そのリプレイを見せ付けられているようでもあった。

考えてみれば、中島は、GKとの1対1や、どフリーのシーンなど、比較的「得点に至りそう」なシーンは尽く外すのであるが、難しい体制や、難しいタイミングからのシュートは得意なのだ。

その時、筆者の脳裏には、ある1人の、古い漫画の登場人物の名前が浮かんできた。

岩鬼正美。

言わずと知れた、水島新司氏の野球漫画の代表作である「ドカベン」の登場人物である。彼の得意とする「悪球撃ち」は、難しくないストレートボールをヒットにする事すら出来ない、基本技術に欠けた選手であるが、こと、ビーンボールや敬遠など、およそ「打てるとは思えないような悪球」が大好きで、そういうボールに限って、アッサリとホームランにしてしまうような能力の持ち主である。

・・・斉藤選手のクロスが「悪球」とまでは言うつもりはないが、あんなに速くて合わせるのが難しいボールに、オフサイドにも成らずにしっかりと押し込んだあたり、かの岩鬼正美のような活躍ぶりを感じるのだ。

後半40分。3-0 仙台、ダメ押し点。

この得点が決まった時、もう既に、磐田の選手の足は止まっていた。仙台の選手も同じように疲労は溜まっていたはずだが、得点経過を思えば、仙台の選手の足はより軽く、そして磐田の選手の足は、より重かった事だろう。

後半ロスタイムとして告げられた3分を経過した状況でも、仙台は、追加点を狙い続けた。セオリー度通りなら、ここで時間稼ぎに入ってもおかしくない展開なのだが、磐田側に、攻撃の圧力の驚異を感じ取れなくなった今、「引いて守り切る」という選択肢は不要だったのかもしれない。

そして、ロスタイムの3分が経過し、主審の笛が鳴り響いたとき、仙台の今季の残留が大きく現実味を帯び、スタジアムを大きな安心感が包み込んだ。

ここで、もう一つの「ドラマ」を記載しておきたい。

実は、勝ち点1ですぐ上に居た、お隣のモンテディオ山形。同じ時間帯でのキックオフでもあり、得点経過を気にしていた。そして、3-1でセレッソに大きくリードし、優位な状況で試合終盤に突入していた事を、携帯にて平行確認していた。

普通なら、この日、仙台が勝っても「山形も勝ちそうだ。今節での順位逆転は無いな・・・」と思うのが当たり前なのだが。

ところが、試合後に他会場の得点経過を再確認して、驚いた。なんとセレッソが、後半終了間際に2得点を奪い、3-3で、山形と引き分けたのだ。

その結果、山形は勝ち点1の上積みに留まり、勝ち点3を上積みした仙台が、ついに山形を勝ち点1差で抜き差り、12位に浮上するリザルトとなったのだ。

そして実は、この日の対戦相手であった、ジュビロ磐田との勝ち点差も、試合前の勝ち点差6から、1ゲーム差となる、勝ち点3差へ詰め寄る事に。また、この日の3得点・無失点という結果は、ジュビロとの勝ち点差を詰めただけでなく、得失点差でもジュビロを逆転する要因ともなった。つまり、次節の結果次第では、11位のジュビロ磐田すら順位で抜き去れる可能性が出て来たのである。

1試合を負けだだけで、降格圏16位の重い足音が聞こえてきた、前節の神戸戦から、一転。1試合を勝っただけで、11位ステップアップの足音すら聞こえてきた。

リーグ終盤戦における、1試合の勝敗の重み。それを、改めて痛感させられた試合でもあった。

ところで、今節のこの試合当日である11月14日は、手倉森監督・ヘッドコーチ兄弟の誕生日でもあった。結果論ではあるが、監督・ヘッドコーチへの、最高のバースデー・プレゼントにも成ったのではないだろうか。

前節の神戸戦の屈辱的な敗戦から、僅か一週間。今節のこんな快勝劇が観られる事など、必ずしも期待しては居なかった筆者だったが、選手のメンタル面をも含め、こんなに見事にチームの立て直しが出来た事に、改めて感じた事がある。それは、「信じる事の大切さ」だ。

だが、もしこの一戦で、内容も伴わずに敗戦を喫していたら、どうなっていたかは判らない。勝利を信じた結果、裏切られて、失意のどん底にたたき落とされていたのかもしれない。

それでも、残り4戦。チームを信じて応援するに足りる状況は、充分に揃っていると観て良いだろう。残り4試合全部を勝利で終われる訳はないと思うが、目の前の一戦・一戦を、勝利を信じて応援するのみ、である。

そして、冒頭の回帰となるが、今一度、この一言を残しておきたい。


「だから、仙台の応援は止められない」-。




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