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第7節vs川崎戦プレビュー 震災の影響を受けながらも、いよいよ再開されるJリーグ。今季開幕戦の状態から、大きく変わってしまったチーム事情。だが、それをも乗り越えて、再び歩み始めなければならない。地域復興の象徴的存在として、クラブに、チームに、そして私たち仙台サポーターに、課せられた責務は重い。この苦難を乗り越える姿をみせる事こそが、最大の地域復興支援だ。

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辛い事があったときも、チームがJ1昇格を目指して頑張る姿に、何度も癒され続けてきた。
苦しい事があったときも、ゴールを狙い、そしてそれを決めたときのその姿に、何度も気持ちを救われ、勇気を貰った。

そして今、東日本全体が、悲しみと苦難の道に立たされている-。

平成23年、3月11日。あの日の大震災を受け、中断を余儀なくされてきたJリーグが、4月23日の第7節より、いよいよ再開される。

何もかもが、完全に元に戻った訳ではない。大地震と大津波、そして原子力発電所の危機的状況を受け、前途多難な未来を、私たちの世代は背負う事になってしまった。Jリーグも再開されるとはいえ、震災の影響を大きく受けた、東日本の太平洋側のクラブには、今もなお、随所に爪痕が残されている。

だが、何といっても心情的に辛い事は、被災・没命した人々の中にも、ベガルタ仙台というクラブのサポーターや関係者が、少なからず居たであろう事実だ。その人々の気持ちを差し置いて、本当は、サッカーどころではないのではないか。それは、痛いほど充分に判っている。

しかし、被災した地域が復興を果たすため、この震災において運良く没命を免れた人々が、没命の悲運に見舞われた人々の分まで、必死に生き抜き、生活再建を掛けた努力を始めなければならない。

そしてその中において、サッカーというプロスポーツを心の拠り所として生活している者にとっては、それを通して地域への復興に貢献する事こそが、牽いては被災地支援・被災者支援に繋がるものと信じている。

震災後のニュースの中で、何よりも嬉しかった事は、仙台のサポーター有志が自ら被災地・被災者の支援を駆って出て、支援物資の収集や被災地訪問を実践した事だった。そして、それに呼応して、浦和や大宮、そして遠くは名古屋から、各地域のサポーターが支援の輪を拡げてくれた事だった。

微力ながら、筆者も、手持ちのまとまった衛生用品物資を拠出させて頂いた。

1人1人が出来る事は、本当に小さい。でも、それをみんなが協力して行う事で、大きな力に成り得る。その事を、大きく再認識させられた、この一ヶ月間であった。

そして今、このタイミングで、Jリーグの再開という「止まった時計の針を再び動かす」大きなタスクが実行されようとしている。

このような災害のあとは、こういった通常のイベントを再開する、その時期を決める事には、非常に神経を使う。早すぎては反感を受け、遅すぎては復興に寄与できない。また、プロスポーツである以上、試合や興行の開催遅延や中止は、そのまま収入減に直結する。それが影響して、クラブの存続危機にまで発展したのでは、何の意味も持たない事になってしまう。

そういった意味では、この第7節・4月23日からのJリーグ再開は、概ねベストなタイミングではなかったか、と筆者は捉えている。

だが、本当に大切で、大事なのは、むしろこれからである。

Jリーグを再開できたからといって、全てが元通りになる訳ではない。震災の影響により、未だサッカーどころではないサポーター諸氏も、大勢居るものと予想している。また、友人や親族、会社関係の中などで、大きな被災を受けたというサポーターも、決して少なくはないだろう。今節、アウェイで現地参戦する人や、次節のホーム開幕・浦和戦に参戦する人の中にも、何らかの影響を受けている方も少なからず居るはずだ。

そういった人々からみれば、正直、サッカーどころではないのかもしれない。しかし、この震災で生き残った人々は、没命の悲運に遭った人々の分まで、必死に生き抜かなければならない。少しでも早く、日常生活を取り戻さなければならない。そして、サポーターとしては、震災以前のように、クラブを、そしてチームを応援し、鼓舞する事を、再び始めなければならないのだ。

多くの人々が、今しばらくの間は、震災前と同じような気持ちでサッカーを観る気にはなれないだろう。しかし、それでもなお、私たちサポーターは、サッカーを観たいはずだ。

そしてこの「サッカーを観たい」という願望を強く持つ事こそが、生きる力の源となり、1人1人が出来る、小さな地域復興への貢献に繋がるのではないだろうか。

私たち1人1人が、我が身に降り掛かった震災の影響を、少しずつ払拭し、小さくしていく努力を重ね、そして、再び「あの場所」を訪れ、興奮と感動を共に分かち合うために。

今は、目の前の出来る事を、一つずつトライしていこう。

私たち仙台サポーターは、被災規模が甚大な東北地方3県の中の、唯一のJクラブのサポーターとして、全国から注目を受けている。もちろん、北関東沿岸部の水戸や鹿島なども、被害規模が決して小さくなかった事を想えば、影響を受けたのは決して仙台だけではないと言いたい。だが、Jリーグという舞台において最大級の被災を受けた、仙台、そして宮城県域こそが、Jリーグ再開における、地域復興の象徴的存在として、全国からの注目を受けている事は、否めない事実である。

私たちサポーターが、仙台というチームの応援を通して、全国に向けて「支援をありがとう、私たちは大丈夫だ」というメッセージを発信して行かなければならない。それこそが、全国や全世界から集まった、支援の手や気持ちに対する、唯一のアンサーなのだから。

ここまで長くなってしまったが、少しだけチーム事情を確認しておこう。

既知の通り、マルキーニョスは退団。詳細は割愛させて頂くとして、やむを得ない事情だっただろう。また、京都から移籍してきた柳沢が急遽手術を行い、しばらくは戦力として計算できない。中原の復帰も遅れているため、せっかくの大型補強が、かなり萎んでしまって見える。

しかし、決して明るい材料が無い訳ではない。新外国人のマックスが、早期にチームにフィットしてくれている事に加えて、大卒新加入のFW武藤が、リーグ開幕前の九州キャンプから好調を維持し、練習試合ではマルチ得点をも果たすなど、鼻息荒く奮闘している。4年ぶりのベガルタ復帰を果たしたFW大久保剛志も、練習試合でバイシクル性のゴールを決めて見せるなど、ソニー仙台時代の活躍ぶりの片鱗を見せ始めている。

リーグ開幕前に予想された、先発FW陣2トップは、赤嶺・マルキーニョスで、実際に広島戦はその組合せだった。だがその一角のマルキーニョスが退団し、更にはFW柳沢の戦線離脱もあり、一気にFW陣の層が薄くなってしまった感もあるが、それを補うべく、控え陣と思われた新加入FWの2人が、最大級のアピールを見せてくれている。

これに加えて、先日の練習試合・大宮戦では、赤嶺を1トップの軸とした、4-3-3フォーメーションというオプションも披露された。FWの枚数が少ない分を、FWも兼務できる太田や関口を前線に並べる事によって、4-4-2の定番布陣とはまた違った魅力を感じさせてくれている。

ここへ、好調を維持している新外国人マックスがボランチの位置から攻撃参加するシーンを想像すれば、FW陣の層が薄くなっている事を忘れさせてくれるような、魅惑の攻撃展開が演じられる可能性に、大きな期待を寄せずには居られない。更には、ベンチワークで大久保や武藤ら新加入選手が起用され、そしてゴールを決め、それが決勝点となった日には、人目を憚る事なく感涙に咽ぶサポーターが続出するかもしれない。

もちろん、決して楽に勝てるとは思ってはいない。マルキーニョスが抜けた穴は決して小さくはなく、それを塞ぐべく、この中断期間の関東キャンプでは、前述のような試行もされたが、実際の本番で、どこまで通用するのかは、甚だ未知数だ。

しかし、裏を返せば、マルキーニョスの抜けた仙台が、どのような選手起用や布陣を敷いてくるのか、それを読み切れない他クラブもあるはず。只でさえ大型補強を敢行し、昨年の選手層から相当な模様替えを果たした仙台が、今季の軸となるはずだったマルキーニョスを欠き、いったいどんな手を打ってくるのか、まずは様子見としているところがほとんどだろう。

マルキーニョスを抱えた仙台を、今季のダークホース的に捉えていた他クラブは多いと思うが、逆にそのマルキーニョスが抜けた事によって、いったいどんな「化学変化」が起きるのか、それは、私たち仙台サポーターにとっても、未知数な期待因子なのである。

ある意味、今回の震災がもたらした、この「影響」が、仙台というチームにとって、決して単なる戦力ダウンなどではなく、別な形態への変化を遂げる、一つのきっかけと成るやも知れないのだ。

「転んでも、只では起きない」

リーグ戦の再開を前に、マルキーニョスの退団という"転倒劇"をみせてしまった仙台だが、そこからの「立ち上がり方」によっては、次からは、簡単に転ばない術を身に付ける事も考えられる。いったい、どんな立ち上がり方を見せてくれるのだろう。期待に胸が膨らむばかりである。

今節の試合が始まったとき、どんな気持ちで試合を観るになるのだろうか。そしてこの試合が終わったとき、その勝敗の内容にも依るとは思うが、どんな気持ちと感想を持つ事になるのだろうか。この試合だけは、単なるリーグ戦の1試合ではなく、そこへ向けた、地域の想いが込められる事になる。

今節の対戦相手こそ、川崎フロンターレというチームではあるが、今節に限って言えば、相手がどこかという事はあまり意味を持たない。大事なのは、あらゆる「危機」を乗り越え、ここから再出発するんだという気持ちの切り替えを必要とする、重要な区切りの一戦だという事。もちろん、勝敗も重要な要素だが、この試合をどう過ごすかによって、今後チームが「勢いに乗るか反るか」の方向性が見えてくると思っている。当然だが、簡単に負ける訳には行かない。

衛星放送(NHK-BS1)での生中継も決まっており、この試合は、否が応でも全国からの注目を集める事になる。恥ずかしい真似は出来ない。90分の最後の1秒まで、勝負を捨てずに選手は戦い続け、そして、最後の1秒まで、ゴールを、勝利を信じてサポーターは応援し続けなければならない。

そして叶うならば、この試合の勝利を以て、被災地・被災者の皆さんへ、勇気と元気を届けられますように-。

 

ところで、この世の生物が進化を遂げるとき、そこには必ず「生命の危機」が存在すると言われている。命の危険に晒される状況に追い込まれたとき、それを回避するために、どのような変化をすれば良いのか。それを試行錯誤しながら、生物は、我が身を置く生態系で生き残るために、必要があれば自らの形態を変化させて来た。それが「進化」である。

今回の大震災の発生は、まさに、この「生命の危機」との直面である。そしてこの震災の影響を受け、マルキーニョスが退団した事は、まさしく「チームの危機」との直面である。

この危機を、いったいどうやって回避するのか。そして、乗り越えるのか。それは、大震災で大きく損壊した街並みを「完全に元通りにする」のではなく、次の世代での大地震や大津波の発生を考慮し「被災を受けにくい街にする」という発想にも通じる。

マルキーニョスが抜けた以上、少なくとも、チームを完全に元通りにする事は出来ない。もっとも、仮にマルキーニョスが残ってくれたと仮定しても、彼の年齢を考えれば、この先、何年もマルキーニョスに頼る訳には行かなかったし、また、年間を通じてマルキーニョスが負傷なく先発に定着してくれるとは限らなかったのだ。

そうなのだ。遅かれ早かれ、J1という「生態系」で生き抜くためには、マルキーニョスという「老練な細胞」に頼らず、自身が変化、そして進化する事で、適応して行かなければならないのだ。

マルキーニョスという老練な細胞を欠いてもなお、今季新加入の、期待溢れる若い細胞が「俺たちが頑張ればいいんだ」と言わんばかりに、練習で気を吐き、本番の試合で結果を出そうと、必死に闘っている。

そして、私たち仙台サポーターも、J1という生態系でこのチームが生き抜くための、重要な細胞の一つではないだろうか。スタジアムや練習場に足を運び、選手に声援を送り、チケットやグッズを買うといった、1人1人の小さな行動の積み重ねが、仙台というチームの重要な栄養素を産み出し、活力の源となる。

「私たちは、決して1人ではない」

震災後に、耳にタコが出来るほどテレビのコマーシャルで聞かされてきたフレーズだが、決して間違った事を言っている訳ではない。どのようなシチュエーションであれ、生物が与えられた生態系で存続するための、必要不可欠な要素なのだから。

私たちは、必ず誰かの助けを受けている。という事は、逆に、誰かを助ける事をしなければならない。そうやって、人類は成長し、発展してきた。どんなに小さな生物や生命体であっても、無数の細胞が寄り添い、生物の骨格や臓器、脳や神経、そして筋肉や表皮を形成している。決して、単独の細胞では成し得ない奇跡だ。

私たち人間は、細胞のレベルからして、単独では生きられない存在なのだ。そうであるならば、その細胞の集合体の一つである、一個体の人間であっても、同じ事ではないだろうか。ただ、物事の捉え方の「層の位置が違う」というだけで、本質は何も変わらないように思う。

未曾有の大災害を受け、「失われた細胞の数」は、あまりに多すぎた。だが、生き残った細胞が力を合わせて、失われた部分を補完しようとし、そしてその部分は、以前にも増してより強くなるものである。

お互いがお互いを助け合いながら、ベガルタ仙台という、一つの大きな生命体が受けた損傷を、みんなで少しずつ修復して行こう。そして試合の日には、元気な声で選手を応援し、鼓舞し、そして勝利を勝ち取った日には、共に喜び合おう。

その行為や姿を、現地で、そして映像を通して周囲に見せる事こそが、被災した地域の復興支援に繋がると信じている。私たちには、サッカーという共通の活力の源がある。それを拠り所とし、私たちの被災地域を応援してくれた、全国の、全世界中の人々に、感謝の意と、元気な姿を以て、「ありがとう、私たちは大丈夫だ」と報告しよう。

それが、私たち仙台サポーターに課せられた、責務と、そして存在価値だと信じている-。




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