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試合直前のカントリーロードのとき、スタンド中でみられた、サポーター同士が手を取り合って選手を迎える姿。それは、前節の川崎戦でもみられたシーンだった。一致団結して選手を声援で鼓舞し、後押しする。その「決意」を、我らがチームの選手たちは、充分に養生された美しいユアスタのピッチの上で、改めて感じ取ってくれた事だろう。
そして試合は、まるで前節・川崎戦の再現の如く、各々の選手らは、実に気持ちの入ったプレーを披露してくれた。しかも、川崎戦で散見されたような連携不足やミスプレーは、概ね影を潜め、面白いように浦和を圧倒。そこには、過去11回の公式戦の対戦において、一度も勝利を挙げられなかったチームとは思えない、実に頼もしく躍動する、仙台の選手の姿があった。
この日、仙台が先発メンバーとして選出した顔触れは、前節の川崎戦と同じ。しかし、川崎戦で敷いた4-3-3布陣ではなく、4-4-2布陣だった。2トップの一角には、前節で貴重な同点弾を挙げた、FW登録の太田をそのまま据える。浦和をホームに迎えるにあたり、仙台は、慣れた4-4-2布陣を選択し、浦和の強力な個性と特長を封じ込める事を最優先とした。そしてその判断が間違っていなかった事を、前半の序盤から、そのプレー内容で確認する事になる。
戦前、浦和側の特長として判っていた事は、前節の名古屋戦で 3-0 と快勝した際にも観られたように、「相手の持つボールにアプローチを掛けてミスを誘い、ショートカウンターで相手ゴールを急襲する」というものだった。昨季王者の名古屋をホームで下したそのメンバーと布陣、そして戦い方を、そのままこの仙台へ持ち込んで来たようだった。
だが、そんな浦和の思惑を、仙台はものの見事に覆した。
仙台が、対浦和戦で採った戦い方は、ピッチ上の選手の動きを見る限り、以下のようなものだった。
・相手が最終ラインでボールを持っている時には、自陣に引いて4-4-2のブロックをしっかりと作り、守備を固める。
・相手のボールが3列目から前に入ってきたら、そこに対して運動量豊富にアプローチし、そこからボール奪取を狙う。
・守備にしろ攻撃にしろ、ボールデッドになるまで、諦めずにプレーを続ける。
特に、2つ目の「運動量豊富にアプローチ」と、3つ目の「諦めずにプレーを続ける」という部分には、大きく目を見張った。浦和が最終ラインから「攻撃のスイッチ」となる楔のボールを入れてくるや否や、仙台の選手は、狙い澄ましたようにそのボールをインターセプトしたり、パスカットしたり、ハイボールに果敢に競り合ってのこぼれ球を拾ったりと、徹底的に「浦和に攻撃のスイッチを入れさせない=浦和の特長を消すプレー」を実践した。このため、浦和に自陣ゴール前まで運ばれるシーンは少なく、実に危なげない、半分安心して観ていられるような試合運びだった。
当然ながら、こういったプレースタイルは、集中力と運動量を格段に要求する。少しでもミスがあれば、そこから綻び、浦和の強力な個性でボールを自陣ゴール前まで運ばれてしまう危険性を胎んでいる。ところが仙台の選手は、そこまで浦和に攻めさせる前に、必ずどこかでそのプレーを切っていたのだった。
また、ボールを奪取してからの攻撃に転じたシーンにおいても、その成長ぶりを感じさせた。誰かがボールを持ちすぎる事はなく、ポジションチェンジを繰り返して、可能性の高い選手に次から次へとボールが繋がっていく。そしてそこには、攻撃の場面でボールを奪われないため、概ね1タッチ以内でのパス交換を繰り返す姿が。あれだけパスを廻せば、相手も簡単にはブロックできない。そして最後には、可能な限りシュートで終わるという姿勢も見て取れ、何度も惜しいシーンを作り出していた。
浦和の選手からみれば、「どうしてここまで思い通りのプレーが出来ないのか」と、甚だ疑問に思った事だろう。
思惑通りに相手の特長を消し続けた仙台と、思惑通りのプレーがなかなか繰り出せない浦和。そんな展開が続いた、前半39分。ある一つの「判断の差」が、仙台に先制点をもたらす。
敵陣右サイドで、浦和のサイドバック・宇賀神と競り合っていた梁の体に、宇賀神の蹴ったボールがあたり、そのボールは、大きく浦和側ゴールラインへ弧を描いて跳んだ。このとき、浦和の守備陣は「ゴールラインを割る」と思ったのか、誰もボールを追い掛けない。しかし、梁は違った。「もしかしたら、バックスピンでボールが戻ってくるかもしれない」と判断し、とっさに自分に当たったそのボールをチェイス。その判断は見事に的中し、ピッチに落下したボールは、バックスピンがかかり、優しく梁の足元へ。そのとき、梁の周辺には誰もいなかった。
まるで、「秒単位の時間制限付きフリーキック」のように、そこから落ち着いてクロスを蹴り込む梁。その先には、今節に2トップの一角として、その仕事をするべきポジションで構えていた、FW登録の太田の姿があった。
このとき太田は、決して「高く跳んだ」訳ではない。更に、太田の傍には、浦和のディフェンスが2枚あり、決してフリーだった訳でもない。それでも、その太田の頭にドンピシャリのクロスを放り込める梁の精度の高さに、改めて驚異を感じた瞬間だった。
太田曰く「合わせるだけだった」というクロスは、綺麗に浦和ゴールの左隅ポスト内側目掛けて軌道を変え、そのままゴールイン。
ここまで、何度となく「予感させるゴール急襲」を繰り返してきた仙台に、報われる瞬間が訪れた。この日、スタジアムを埋め尽くしたサポーターが、待ちに待った得点シーン。それは、決して偶然でも奇跡でもなんでもなく、仙台がこの日に採った戦略と、最後まで諦めない姿勢と、そして日頃の練習の賜物である精度の高さから産まれた、「獲るべくして獲ったゴール」だった。
これで慌てた浦和は、後半の頭から、FW田中達也に変えて、同じFWの高崎寛之を投入してくる。スピードで勝負出来ないと判断した浦和が、高さのある高崎(公称188cm)を投入してきた事で、パワープレーも含めた「逆襲」の予感がした。事実、後半は浦和の猛攻に対して、仙台が守備で耐え続ける様相に。だがここでも、富田と松下を投入し、中盤の守備力をリフレッシュして、決して流れを浦和に渡さなかった。
後半終了間際に、自陣エリア手前でフリーキックを与えてしまったものの、これを体を張って凌ぎ、最後は疲れの見える梁をマックスに変える余裕まで見せ、追い縋る浦和に最後までチャンスを与えなかった。
後半の途中、西からの雲行きが怪しくなり、一時は強い雨が落ちてきたが、前節に雨中の川崎戦を経験していた仙台の選手にとっては、慌てるような材料ではなかった。むしろ、不慣れなピッチに突然の雨で、ボールの感触が変わってしまったであろう浦和のほうに分の悪さがあった事だろう。
試合終了を告げる、飯田主審のホイッスルの音色を聞いたとき、仙台の今季連勝が確定した。スタンドには、期待通りのプレーと結果をもたらしてくれた選手へ、労いの言葉を掛けるサポーターの姿。ピッチ上には、目的を果たした選手の、自信に満ち溢れる姿があった。
こうして、被災地をホームタウンとするJ1チームの、ホーム開幕戦はその幕を下ろした。
試合終了と同時に、地鳴りのような応援を繰り返していた浦和サポーターも、敗戦を受け入れるかのように、静かになった。報道では3500人とも4000人とも言われた通り、今節、浦和サポーターは、ユアスタのアウェイゾーンを満たしてくれた。自由南ゾーンで応援していた筆者からみれば、見事としか言いようのない迫力ある応援で、浦和サポータの熱意の高さを感じ取れた。もしこれが、昨年までと同様に宮城スタジアムで行われていたとしたら、あそこまで、身近で迫力ある応援は体感出来なかっただろう。ある意味では「貴重な体験」だったとも言える。あれだけの動員力を誇る浦和サポーターは、J1屈指の存在だ。来年はどうなるかまだ判らないが、できれば、浦和にはまたユアスタに来て貰いたい。
冒頭でも書いたように、仙台はこれまで、浦和に一度も勝った事が無かったため、この試合が、対・浦和戦での初勝利となった。ホーム開幕戦だった事や、被災地応援や地域復興ムードの後押しという側面もあり、絶対に勝利を手にしたい試合であった事は事実なのだが、仮に、こういった側面が「無かったもの」としたとしても、仙台は「勝つべくして勝った試合」と言えるのではないか。
試合の内容を見る限り、決して「弱者VS強者」という構図のそれでは無かった。それも、決して浦和が調子を崩していた訳ではないと思われた。事実、戦前に浦和の柱谷GMは「空気は読まない」と豪語しており、前節の名古屋戦の勝利を自信の裏付けとし、昨年もユアスタで大暴れしていった、マルシオ・リシャルデスも健在である事から、浦和としては「10年ぶりの仙台スタジアム」だったとしても、仙台を相手に勝利する自信は充分にあった事だろう。
だが、その柱谷GMの「鼻っ柱」を折ったのは、紛れもなく仙台の実力。勝負事である以上、必ずしも「相手と真っ正面からがぶり四つに組む」必要はなく、相手との力量差や特長の違いをきちんと分析した上で、勝つために必要な手立てを講じただけの事だ。そして今節、それが見事に嵌り、目論み通りの展開と結果を得る事に成功した訳である。
そう、この勝利は、決して「ジャイアント・キリング」ではない-。
確かに、震災の影響によって、チーム活動の中断や、マルキーニョスの退団など、不利となるような材料はあった。しかし、逆に考えれば、物資支援や被災地訪問などの活動を通して、残った選手のモチベーションが向上し、本来このチームが持つポテンシャルを、結果的に引き出す事になったとも言える。
J2時代のそれと比べ、昨年1年間のJ1での経験、選手層、運動量や技術の向上など、あらゆる側面において、現在の仙台は「J1らしいチーム」に成長してきた。ただ、思い通りに行かないときの立て直しの方法など、チームとしての経験不足から来る迷いは、今後もあるかもしれない。それでも、現状を見る限りでは、手倉森監督の下、今後も「上手にこのチームでJ1を戦っていけそうな雰囲気」は、充分に感じられる。
いま、私たちが応援しているこのチームは、引き続き成長過程にあるとはいえ、その「立ち位置」は、既に「J2からの挑戦者」というスタンスは脱している。昨年1年間のJ1経験から学んだものは多く、今季の獲得選手のポジションや顔触れをみても、J1を戦い抜くに相応しい選出で、実際に、チョ・角田・マックスや松下は、即戦力としてチームの勝利に貢献している。
ただ、私たちサポーターも含めて、決して、「勘違い」や「誤解」はしたくないものだ。川崎や浦和に勝てた理由において、もちろんチームとしての成長は感じるけれども、平時とは違ったモチベーション状態だった事や、相手との駆け引きがうまく嵌った事なども含んでの結果だったと思う。
まだまだ、チームとしては「綻び」はあるだろうし、敗戦時のメンタル面も含めて「常勝軍団」と呼べるようになるまでは、その道のりは長いものとなるだろう。
冷静に考えれば、本当に大事なのは、次節のホーム・福岡戦だ。川崎や浦和といったビッグネームを相手に連勝した事で、否が応でも「現在3連敗中の福岡が次節の相手=楽勝ムード」という方程式がチラついて見えてしまう。が、そこにこそ「落とし穴」が存在する。
今節、浦和が仙台と対峙するにあたり、前節の名古屋戦での快勝劇が「成功体験」となった事により、浦和側に、メンタル面での隙が産まれた可能性は高い。もちろん、仙台がホーム開幕戦である事や、被災地応援の側面もあり、平時とは違ったモチベーション状態である事は充分に認識していた事であろうが、その点も含めて、結果は仙台の勝利。内容でも、仙台を凌駕したとはとても言えないものだった。
仙台として気を付けなければならないのは、まさにこの部分にある。
川崎や浦和に勝ったという「成功体験」は、一度、完全に捨てたほうが良いだろう。この点については、判っている人は判っている。例年、仙台というチームは、上位のチームやビッグクラブと称されるチームに対しては、比較的良い試合展開とする事が多く、ここに結果が伴う事もしばしばであるが、反面、下位チームに足元を救われるケースも多々観られる。
ましてや福岡は、J2時代、仙台としては苦手としてきたチームだ。詳細は次節のプレビューにて書かせて頂く事としたいが、次節、仙台が足元を救われる可能性となる材料は、決して少なくない。
前節のレポートでも書いたが、仙台の今季の戦いは、まだ始まったばかりだ。決して、川崎や浦和を破った事で、なんらかのアドバンテージを得られた訳ではないし、福岡に勝てるという保証もない。あるのは、「常に対戦相手と真摯に向き合い、相手をリスペクトしつつも勝つために必要な材料を準備し用意する、一戦必勝の姿勢を、毎試合貫けるかどうか」という課題だけだ。
中三日で、すぐに次節がやってくる。連勝しているときは、試合の間隔が空かない方が良いと言うが、まさにその通りの日程で推移している。が、ゴールデンウィークの過密日程の中(そういえば、既にゴールデンウィークに突入した事の実感が無いのも、今季の特徴なのかもしれない)、たった一つの苦戦や敗戦が、そこからの低迷期への入り口となってしまう可能性を秘めている。
よもや、忘れた人は居まい。昨年の第5節までの快進撃が嘘のように、第6節清水戦で受けた大敗をきっかけとし、そこからの14戦未勝利という長いトンネルに突入してしまった事を。
たった3試合を消化しただけの今季J1だが、時期的には本来、8試合を消化しているはずであり、順位表の上下関係が、概ね各チームの実力の程度を現していておかしくない時期でもある。現在の順位表の下半分には、蒼々たる顔触れが並んでいるが、これが一ヶ月後に、いったいどうなっているか。一部のチームを除き上半分と下半分がそっくり入れ替わっていてもおかしくは無いのだ。
3月の大震災以来、色々な事が有りすぎて、万感の思いで臨んだ、リーグ再開戦とホーム開幕戦だった。が、ここから先は「いつものリーグ戦」が待っている。弱者は、容赦なく降格圏の順位に叩き落とされる。
今季の34節が全て終わるまで、今季の私たちのサポートもまた終わらない。ましてや、地域の復興はこの先、何年もかかる。その間、ベガルタ仙台は、宮城県域初のプロスポーツクラブとして、常に地域の「希望の光」であり続けなければならない(手倉森監督談)。
そして、その光を灯し続けるためのエネルギー源が、私たちサポーターの存在なのだ。チームの躍進とクラブの発展を願う、私たち仙台サポーターの1人1人の普段からの頑張りにこそ、地域復興のカギが隠されている。
私たちは決して、「希望の光を見せて貰う側」の立場だけではなく、むしろ「希望の光の構成要素でもある」のだ。スタジアムでの直接的な応援を含め、このチームとクラブを支える側の立場にもある。選手がピッチで頑張るためには、私たちが普段からしっかりとした経済活動を行い、地域を元気にする努力が必要なのだ。そしてそこで得た収入を、チームの応援という形で提供し、そしてチームから元気を貰う。貰った元気を糧にして、また明日から頑張る気持ちを持てる。
本当に少しずつではあると思うが、このチームの応援を通して、地域の復興に貢献できるのであれば、是非ともこれを続けて行きたい。この気持ちを持ち続ける事こそが「希望の光」ではないか。
さぁ、いつものリーグ戦が待っている。
震災になんぞ、負けてたまるか。このチームの応援を通して、絶対に復興してみせる。
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