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心配された雨模様も、試合1時間前には上がり始め、昨年ほどの酷さは感じられなかった。ピッチ上も雨の影響はほとんど感じられず、気候の涼しさも手伝って、プレーに集中できる環境の中、今季初のみちのくダービーは催行された。
この一戦は、全国的にみれば「震災後の東北地方のチーム同士のダービーマッチ」という色合いだったと思うが、サポーターをも含めた当事者同士は、あまりそういった部分は色濃く感じず、むしろ「いつもの殺伐としたダービーマッチの雰囲気」を存分に楽しめたかと思われた。
皮肉めいたコールの掛け合い。久しぶりに聞くブーイング。18,000人を越えた入場者数。ゴール裏を、ゴールド一色で埋め尽くした仙台サポーター。両陣営の観客席に散見される、ダービーマッチ特有のゲーフラ。どれをとっても、いつものみちのくダービーの「それ」を、確かに感じ取る事ができた。
なお、昨年のNDスタ対戦との気候の違いを比較したとすれば、「雷の影響で、試合開催そのものが危ぶまれる事態までは発展しなかった事」や、「山形側を後押しするような"虹"が出なかった事」か。特に、虹が出なかった事については「これ幸い」とすら思えた。万が一、2年連続で試合当日の空に虹など掛かろうものなら、どれだけ山形側のサポーターに勇気を与えてしまった事だろう。むしろ、あれだけの雨模様だったにも関わらず、天候回復時に「それ」が出なかった事自体が、山形側にとって、この試合の行く末を暗示していたかのようでもあった。
この試合を、全体を通して簡潔に表現するとすれば、それは「堅い試合だった」となるだろうか。
両サポーターが作り上げた、ダービーらしい雰囲気の中、お互いのチームが試合の前半で繰り広げた内容は、お世辞にも「ダービーらしい好ゲーム」とは言えない、お互いの出方の様子を探り合いながら時折ジャブを撃つような展開。だが、それもある程度はやむを得なかっただろうか。お互い、直前のリーグ戦の流れで、それぞれに悔しい想いをして臨んだ一戦であり、試合の前半から、詰まらないミスなどで失点し、自らを苦しめたくないという思惑はあっただろう。
それでも、相手の一瞬の隙を見付けようものなら、その瞬間だけは、お互い、積極的に撃って出た。
前半13分。左サイドから赤嶺が送り込んだクロスに、逆サイドから菅井が合わせるも、山形MF宮沢に阻まれ、惜しくもゴール成らず。
前半18分。相手PAライン付近からの赤嶺の「後方への落とし」に、後方から太田が豪快にシュートも、惜しくも山形GK植草の正面。
前半23分。山形FW長谷川に豪快なミドルを撃たれるも、枠外。
この他、両者それぞれチャンスメークまでは持ち込むが、「まず、前半は失点をゼロに抑える事が優先」と言わんばかりに、相手がボールを持っている時は、決して無理せず、すばやく自陣にてブロックを形成。こんな展開では、簡単に得点が産まれるはずもない。が、前半を0-0で終えるのは、両者の指揮官共に「想定ゲームプランの範囲内」だったのだろう。たった1分の前半ロスタイムも、あっと言う間に消化し、勝負は後半へ持ち込まれる。
ハーフタイムを経て、後半へ突入すると、仙台サポーターの陣取るアウェイゴール裏にて、一つの「小さな異変」が起きている事に、周囲が気付き始める。
「急に、風が強くなった-」
この風というのは、スタジアムのメインスタンド側からみて、左から右へ吹き始めた風の事。仙台サポーターにとっては向かい風となり、前半に比べて急に体感気温が下がり始め、寒ささえ感じた人も多かったと思う。
が、考えてみれば、この風は、仙台の選手にとってみれば「追い風」以外の何物でもなかった。
そして、後半7分。この「追い風」を味方に付けた仙台が、セットプレーから、この日唯一の得点を挙げる事に成功する。
山形ゴールへは、かなりの距離がある、ピッチ右サイドのセンターラインよりやや前目の位置で、角田がFKを獲得。これを蹴り込む梁。放り込まれたボールは、それこそ「風」に乗って、このFKを獲得した角田の頭へ、ドンピシャリ。若干山なりの軌道を描いて山形ゴールを目指したボールは、惜しくもバーに嫌われるも、この溢れ球にキッチリ詰めたのが、山形県出身で、このスタジアムは学生の頃から慣れ親しんでいたという、菅井直樹だった。
走り込みながら、落ち着いて左足を振り抜いて撃った「リバウンドシュート」は、山形GK植草の反応を嘲笑いながら、豪快に山形ゴールネットを揺らした。
後半8分。山形0-1仙台。
仙台からしてみれば、試合序盤からの堅いゲーム展開の中、絶対に失点しまいと守備への集中を決して切らさずに推移し、そして、仙台の得点源の一つでもある、セットプレーでのチャンスを、ようやくモノにした瞬間だった。
実は、前半のうちに、コーナーキックを6本も獲得していながら、一つも決められなかった仙台だったが、逆を言えば、山形側に前半で与えたコーナーキックは、なんとゼロ。仙台としては、前半を無得点で折り返しながらも、内容では、山形の攻撃を「フィニッシュまで持ち込ませる」前にその芽を潰し続ける事に成功しており、この時点で、仙台側に試合の流れが傾いていた事は明白な事実だった。
この「良い流れ」を維持したまま、後半に入り、そして吹き始めた「追い風」。舞台は整い、その流れの中から産まれたゴールシーンであった。
山形側からみれば、この失点劇で、自らのゲームプランは音を立てて崩れた。ただ、失点の起点がセットプレーでは、ある程度は仕方ない。それも、かなり山形ゴールから離れた場所でのFKの場面だっただけに、「あのセットプレーを仙台に与えたのが、山形にとっての敗因」と言うには、あまりに酷というものか。
2006年以降の5年間(山形J1期、仙台J2期での未対戦年度も含めて)、NDスタは、天候の影響も含めて仙台に味方してこなかったが、この日ばかりは、仙台に微笑みかけてくれた。
まるで、「このタイミングで勝つべきは仙台」と言わんばかりの得点劇。NDスタのピッチに影響を与える雨は試合前に上がり、虹も出ず、そして、後半になって仙台に吹いた「追い風」。これらを背景に、仙台は、獲るべくして得点を獲った。
だが、仙台にとっての「追試」は、まさにこの瞬間から始まったのだった。
言わずと知れた、2試合連続の試合終盤での失点劇。2得点目を狙う事も、もちろん大事だったが、この日唯一の得点となった、この、後半8分の得点を、如何にして最後まで守りきれるか。時間が経つにつれ、「このまま無失点で1-0勝利」を意識し出したのは、選手、コーチ陣、そしてサポーターだった。大丈夫か?このまま守りきれるのか?また失点するんじゃないのか?
-だが、そんな心配は皆無だった。
試合時間が90分に近づくにつれ、仙台の選手たちに見られたのは「山形に絶対にボールを渡さない」という、強い、そして統率された意志。
C大阪戦の後半ロスタイムで、松下が安易にFKを蹴ってしまい、相手にチャンスを渡した失敗。
磐田戦の後半ロスタイムで、鎌田が判断ミスし、磐田GK川口の何でもないゴールキックの処理を誤った失敗。
過去2戦の経験から学んだ選手たちは、実に頼もしく、徹底的に時間を使うプレーに徹した。セットプレーなどで獲得したボールは、尽くコーナーポストに持ち込み、体を張って、山形にボールを渡さなかった。もし渡してしまった後でも、しつこく追い廻し、相手のミスを誘って再びボールを奪い返し、また時間稼ぎに入った。
仙台側から見れば、今節の驚異かと思われた古橋の復帰も、仙台のブ厚くて手堅い守備の前には何もできず。また、昨年のNDスタでの対戦で、前半3分にミドルで先制点を許した秋葉も、今節は守備堅めのため、ボランチスタートだった事から、前線での驚異には繋がらなかった。
山形は、失点後に何とか追い付こうと、攻撃的な選手を次から次へと投入して来た。そんな中で、福岡から移籍してきた"ジャンボ"大久保は驚異にも思われたが、投入が後半39分では、活躍できる場面はほとんど無し。そもそも、仙台からボールを奪えないのだから、いくら高さのある選手を入れても、何の意味も持たなかった。
試合時間も90分を経過し、掲示された後半ロスタイムは3分。それでも長いと感じられたが、また4分とか5分とか掲示されるよりはまだ良かった。だが、もしこの日にまた5分との掲示があったとしても、おそらく状況は何も変わらなかっただろう。それだけ、仙台の選手からは、絶対にこの1点を守りきるという気迫が漲っているのを感じ取る事が出来た。
そして、ほぼ時間通りに、高山主審の笛が鳴り響く。沸き立つ仙台サポーター。それとは正反対に、意気消沈し、静まりかえる山形サポーター。試合後の雰囲気は、まさに「出張ユアスタ」だった。山形側には大変申し訳なかったが、少々長めに応援歌を歌わせて頂き、しばし、3試合ぶりの勝利の余韻に浸らせて頂いた。
ところでこの試合は、山形戦アウェイとしては異例とも言える、ユアスタでのパブリック・ビューイングも開催された。JリーグアフターゲームショーのMCである平畠氏や、JリーグPR女子マネの足立梨花嬢も応援に駆け付けてくれ、1,700名も集まったユアスタでも、大いに盛り上がった事だろう。
帰宅後、映像で菅井のインタビューを確認したが、最後まで「クールガイ」だった。笑み一つ溢さず、朴訥(ぼくとつ)と質問に答える菅井。だが、仙台サポーターはみな判っている。この大事な一戦で、しかも出身地でもある山形で、自身ダービー初の決勝ゴールを挙げ、試合後のインタビュー選手に選出された事が、どれだけ菅井自身にとって嬉しい事なのかを。
最後に、高らかにNDスタに響き渡った"AURA"の歌声は、3試合ぶりの勝利を喜ぶ意味のみならず、5年間勝てなかったNDスタの地での勝利、そして、J1で再び上位争いに参画する資格を取り戻した事への、歓喜の意味をも含んでいた。
ただ、惜しむらくは、お互いが必ずしも上り調子の中での対戦と成らなかった事か。仙台は、無敗継続ながらも2試合連続で勝利を手放し、山形は、2試合連続で無得点の敗戦という状況で迎えたダービーマッチだった事から、お互いの持ち味を発揮しての好試合とは言えない、堅い内容に終始したゲーム展開だった。次回、ユアスタで対戦する時には、山形には是非とも降格圏を脱出した状態で、上り調子で来仙してきて欲しいものである。
そして、今節の終了時点での順位と勝ち点を確認すれば、勝ち点を15に伸ばし、順位も単独2位に再浮上。なんと、J38チーム中で唯一の無敗チームという属性まで付く事になった。次節が、現在3位に付ける横浜FMとの直接対決である事を考えると、この山形戦で、ゲ-ム終盤の試合運びの課題の克服を含めて「仙台としての勝ち方」を思い出せた事は、非常に大きい財産となった。
自信を以て、今季好調の横浜FMを、ユアスタへ迎えよう。
中村俊輔、中澤佑二、大黒将志といったビッグネームを擁する、現在絶好調の横浜FMだが、仙台らしい戦い方を忘れさえしなければ、決して横浜のワンサイドゲームなどにはならないはずだ。今節の山形戦は非常に堅い展開となったが、横浜FM戦は一転、お互いの良さを出しながら、同時にお互いの良さを消し合う、好ゲームになる事が予想される。
大事な次節の一戦まで、中5日。選手には、まずはしっかりと休息をとって貰い、次節へ向けて、また良い準備をして頂きたい。
もはや仙台は、他のJ1チームから「震災の影響を受けてなおJ1に挑戦し続ける、頑張る被災地チーム」というカラーで見られる事は無いだろう。もちろん、そのカラーを纏って今季の挑戦が始まった事は事実なのだが、そこで得たモチベーションを上手に運用し、予想以上の成績を挙げて、現在、単独2位に鎮座している。どう考えても、今後は「単純に見て、倒すべき上位チーム」として見られる事は必至。これからは、徹底的なスカウティングの標的とされるに違いない。仙台としては、現状に満足せず、迎え撃つ相手を如何に叩き伏せるか、常に向上心を持ち続けなければ、この位置に居続ける事は出来ない。
これから先も、厳しい戦いは続く。幸か不幸かここまで無敗を継続中だが、シーズンを通しての無敗など、まず考えられない。問題は、もし負ける試合が来た時に、その後の立ち直りを如何にきちんと行うかだ。長いシーズン、好調なときばかりとは限らない。そうなった時、如何に私たちサポーターが、チームを信じて応援を続けられるかも、同時に試される事になる。
だが今だけは、もうしばらく、現在の状況を愉しみたい。そして、横浜FM戦までの数日間を、希望に胸を膨らませて過ごしたいものだ。
・・・余談だが、帰宅後に映像で、両監督のインタビューを確認したのだが・・・そこには、実に奇妙な光景が広がっていた。
[兄・手倉森誠]氏を、[弟・手倉森浩]氏がインタビューとかウケ過ぎ。。しかも、仙台を離れてからの浩氏は、解説室の映像を見る限り、兄とは見分けが付かないくらいに似ていた。(一卵性双生児なのだから当たり前なのだが)見分ける方法は、インタビューの立ち位置と、眼鏡と、マイクを握っているかどうかだけ。ある意味で、非常に貴重なツーショットの場面だった。
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